第46回:勇猛果敢 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

ホームサイトマップお問合わせ・資料請求
パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
サービス内容事例紹介講師紹介お客様の声コラム会社概要

第46回:勇猛果敢

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、以前に書いたもの
ではなく、海上自衛隊退官後22年を経過してしまいましたが、現在の私が思い
起こし感じていることを書かせていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、
などという企みをしました。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題
も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間
生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」が
ごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話
を進めたいと思っております。

「勇猛果敢」、例の「空飛ぶ広報室」のテレビドラマ以来、すっかり航空自衛隊の
代名詞となった感もあります。(ただし、「勇猛果敢」の後に「支離滅裂」がつかないと
本当の意味での航空自衛隊にはならないのですが)

昔のゼロ戦などの戦闘機の搭乗員が
いかに勇猛であったかということは、巷間よく言われることではありますが、
私は見たことも会ったこともないので、過去の話を物語として読むか映画で見るくらい
しかありません。しかし、護衛艦「はるゆき」で接した艦載ヘリの搭乗員たちは、
私の目から見て、正に「勇猛果敢」を地でいくような連中でした。なぜ、私がそのように
感じたのかを今回は語ってみたいと思います。

第16回「組織間の壁」において、
以下の文章で終えたことはみなさまには記憶にないかと思いますが、ちょっとご覧ください。

http://www.ecore-i.co.jp/?p=909
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
やはり「組織の壁」をなくすには、同じ目標に向かっているというだけではなく、
ともに行動することであり、同じ釜の飯を食うような関係になることが大切なことを
痛感しました。ちなみに、私が見た艦載ヘリコプターの搭乗員というのは、
本当に勇猛果敢であり、いにしえの「零戦の搭乗員もかくあったのでは‥‥?」と
思わせるものがあり、その意味でも船乗りにはない敬愛すべき一面があったことが、
そのような対立意識を打ち消した一因であるとも思っています。それは、
今でも変わっていないと思うのですが‥‥。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はるゆき」は、今から見ると3000トン程度の小型(?中型)艦ですが、当時は
最新鋭のかなり大型護衛艦のひとつでした。搭載するヘリは1機だけですが、
訓練で出港する度に館山沖で艦に搭載され、1カ月であろうと、2カ月であろうと、
はたまたリンパック等でハワイ、米国に行った際は5カ月だろうと、搭乗員は艦に乗組み、
生活を共にし、訓練も共にします。毎回2クルーが乗ってきます。1クルーは搭乗員待機所で
いつでも発艦できる状態で待機をしています。日中は当然のように短時間で
発艦していきますが、真夜中であろうが、いつでも極めて短時間で飛び立っていくことに
私は驚きました。哨戒長として当直についていると潜水艦の探知情報が入ります。
また、自艦のレーダーが潜望鏡と思われるものを、あるいはソーナーが潜水艦と
思しきものを探知することもあります。その際に哨戒長としての私は、艦内マイクで
「航空機即時待機」と号令をかけます。ヘリはいつでも飛び立てる状態で飛行甲板に
固定されていますが、搭乗員は飛行甲板に脱兎のごとく飛び出し、真っ暗闇の飛行甲板上の
コクピット内でぼんやりと光る赤や緑のランプを見ながらエンジンを始動します。
号令をかけた私自身が驚くほど素早く、ローターを咬合する、という報告がきます。ローターと
エンジンとを咬み合わせて回転させる際には、艦の針路を一定に保つ必要があります。
ローターが回転し始め安定すると発艦の用意ができたことになります。哨戒長としては、
発艦のためには相対的に一定方向から風を受けるべく所定の針路に変針をする必要があるので、
他の艦との針路が交叉したりする可能性があるため緊張するところとなります。
発艦針路にして「定針」を知らせると、LSO(Landing safety officer:飛行長)から
「発艦させる」という報告の後ヘリは発艦していきます。長々と書きましたが、
ここまで私が号令をかけてから3分ほどであったかと思います。真っ暗な海の上に
飛び出してからは、何でもなかったように3機ないし4機のヘリ同士が無線で交信をしながら、
ソノブイを撒いたり、潜水艦の存在海域にソーナーを降下すべくホバリングしたりする
様子を確認して、「こいつらすごいな‥‥」とつくづくと思ったところです。

航海中は護衛艦相互に人の往来をすることがあり、その際には当然ヘリが使われます。
私が何かの用事で他の艦に行った帰りのことです。自分の艦を上から見て、搭載機の機長と
副操縦士君に、「君たち、よくあんな狭いところに着艦できるもんだね」と言ったところ、
若い副操縦士N2尉が、「だって、ここしか降りるとこないですから‥‥」と簡単に言われて
しまいました。そうなんですね、彼らにはここしか降りるところがなく、それが嫌なら
海に着水でもするしかないのです。しかしです、艦に近づいてみるとわかりますが、
着艦する際には高速で回転するヘリのローターと格納庫の間隔はほんの数メートル
しかありません。素人の私が見る限り、「これは無理だろう」などと思ってしまいます。
とはいえ、私も乗っているので何とか降りてもらわないといけないのです。
決して簡単とは思えませんが、少しずつ飛行甲板に接近して、LSOからの指示と
リコメンドを受けながら定位置にきちっと着艦します。終わってみると、彼らの表情には
厳しい緊張の跡は残っているものの、あっけらかんとしているのです。夜間に短時間で
発艦してオペレーションをする姿にも圧倒されますが、鮮やかに狭い小さな甲板に
いとも簡単に見せながら降りてしまう彼らの中に、私は、「勇猛果敢」という言葉の意味を
感じたものと思われます。海上自衛隊の艦載ヘリの操縦士である彼らに対して「尊敬の念」
を抱く瞬間でもありました。今では一緒に月1回のゴルフを楽しんでいる同期のH君、O君、
ゴルフの腕前もさることながら、飛行隊長や航空隊司令、航空群司令などの部隊指揮官を
歴任した彼らの経歴もあるものの、艦載ヘリのパイロットであったことによる「勇猛果敢」さ
に対する私の「尊敬の念」は今になっても変わっていないと思っております。

Copyright (c) 2024 e-Core Incubation Co.,Ltd. All Rights Reserved.  Web Produce by LAYER ZERO.