第71回:災害派遣 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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紺野真理の「海軍におけるマネジメント」(艦隊勤務雑感)
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第71回:災害派遣

※弊社のメルマガに以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
20年前に書いたものではなく、退職後27年を経過してしまいましたが、
現在の私が思い起こし感じていることを書かせていただき、
今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、
主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいります
のであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 6月末に「関東地方に梅雨明け」というニュースを聞いたと思いつつ7月に入ったら、またもや雨が降り出し、6日から7日にかけて九州北部、中国地方を中心に集中豪雨による大変大きな被害が発生してしまいました。この際にも、多くの地域で「自衛隊に災害派遣の要請がなされました」などという報道を見たり聞いたりした方も多いことと思いますが、災害派遣というと、このような災害の現場において、自衛隊が大規模に出動している状況を思い浮かべることと思いますが、日常的にもっと身近なところでこの災害派遣がなされていることをご存知でしょうか。
 それは急患輸送と呼ばれる離島での急病人の発生等に伴う緊急輸送なのです。急患輸送は災害派遣の中でもっとも頻繁に実施されている活動であり、私の手元で見ることのできる平成28年度の資料では、災害派遣総件数516件中409件(79%)がこの急患輸送に充てられているのです。

 私が防衛庁(現防衛省)の海上幕僚監部人事課に在職していた当時、2ヶ月あるいは3か月に1度くらいの頻度で当直勤務がまわってきます。3佐の際は副直幕僚ということで、当直幕僚の補佐なのですが、2佐に昇任してからは当直幕僚という役割がまわってきて、その責任も重くなります。ある当直の夜に起こったことなのですが、今となってはあまり正確ではないかもしれませんが、概ね次のとおりであったと記憶しています。夜の10時を過ぎた頃でしたが、千葉県館山の対潜ヘリ部隊である第21航空群の当直幕僚から、「伊豆大島において急患輸送の依頼が来ている。こちらは直ちに準備をするのでよろしく」ということでした。何がよろしくなのか、ということは当直についている幕僚同士としては自明のことであるのですが、東京都知事からの災害派遣要請がなされるので、それを受け取ったら直ちに離陸するので連絡を、ということなのです。ところが、5分経っても10分経っても、当直室にあるFAX受信機が動く気配はありません。こちらから、都庁の担当者に連絡を取って「まだですか……?」などということは基本的にしていません。現場では現地の大島町役場とはツーカーのようなところがあり、急病人の容態を含めた状況等も良くわかっているところもあるようです。現場からは、「準備ができたので離陸し、伊豆大島に向かわせたい」と言ってきます。当直幕僚として、軽々に“OK”と言える状況ではありません。

 1989年当時のことですから、1995年の阪神・淡路大震災よりはるか前であり、都道府県知事からも災害派遣要請のない段階で、自衛隊の部隊が動くなどということはあってはならない、というのが当然のことであった時代のことです。皆様ご承知のように、阪神・淡路大震災の折には、兵庫県知事からの災害派遣要請が届くまで、現地の陸上自衛隊部隊が動くことができず、震災後に自衛隊の対応が遅かった、などとあらぬ批判をされたことも悲しいかな事実だったのです。それ以後、地方自治体と警察、消防、そして自衛隊の相互協力体制を構築する動きが加速したことにより、東日本大震災の時には、かなり改善されたということもみなさまのご記憶にも残っていることと思います。東日本大震災の時には、当時の東北方面総監(同期の君塚栄治君:故人)が、陸海空の各部隊を一元的に指揮して、最大規模としては10万人体制での活動ができたことが、当面の活動を効果的にしたとも言われています。現状においては、自主派遣という考え方も自衛隊法の中に入っており、自衛隊の部隊指揮官独自の判断で部隊を動かすことも可能になっているのですが。

 しかし、当時はそのようなこととなるはるか前の話であり、災害派遣要請なしにヘリを飛ばすわけにはいきません。「まだ、要請が来ていない」と伝える私の言葉が終わるか終わらないうちに、相手からは、「何言ってるんですか、人命がかかってるんですよ、上がりますよ(離陸しますよという意味)」と言ってきます。「第46回 勇猛果敢」にも書いたとおり、艦載ヘリであれば、真夜中であっても下令後3分程度で発艦していく彼らですから、すでにエンジンは起動されて事前チェックも終え、離陸スポットに異動したヘリはローターがいつでも離陸可能な状態で回転していることは想像に難くありません。私が言葉に詰まっていると、「OKと言ってくださいよ、上がりますよ」と続けてきます。私は自分の判断を示すしかありませんが、さすがに格好良く「離陸せよ」などと言えるわけもなく、「よし、わかった、気を付けていってください」とやや後ろ向きに言ったのを覚えています。東京都知事からの災害派遣要請がFAX受信機から出てきたのは、その8分後くらいでした。その間私が何を考えていたかというと、もうおわかりのことと思いますが、この間に飛行中のヘリに何かあったら、「俺が責任をとるしかないんだよな……!」ということでした。災害派遣要請が届いていないことを承知で、部隊のヘリが離陸するのを容認したことになるのです。その時には腹を括るしかないということは自明のことでもあります。現在でも急患輸送は、特に沖縄や南西諸島方面など離島地区での出動はかなりの数に上っているようです。各地方自治体や消防、警察にもヘリの配備が増加されており、ドクターヘリなども逐次整備、運用されているようですが、まだまだ自衛隊に対する急患輸送の要請は多いようです。災害時の派遣の態様やそれを受け止める国民の目は以前とは大きく異なっているようですが、その任務にかかわっている一人ひとりの隊員の責任感と使命感というものは今でも変りないものと思っています。

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