第74回:英語に学ぶ « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第74回:英語に学ぶ

※弊社のメルマガに以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
20年前に書いたものではなく、退職後27年を経過してしまいましたが、
現在の私が思い起こし感じていることを書かせていただき、
今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、
主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいります
のであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 英語を学ぶ必要があることは誰もが認めるところであり、私たちの世代でも中学校から高校までの6年間にかなりの勉強をしてきたはずです。また、大学でも英語を勉強した方も多いのではないかと思います。ちなみに私は防衛大学校ではロシア語しか学んでおらず、英語学習は6年間だけだったので、護衛艦勤務となってからは、米海軍との付き合いの中で英語には大変苦労したところでした。今では小学校から英語の授業が行われているようですが、何か極端から極端に走っているような気がしないでもなく、本当にそれで良いのだろうかと考えてしまったりもするのですが。私たちの若い頃は、米海軍の人たちでも日本人が英語を話して当たり前、という感覚の方も多かったようですが、少しずつではあるものの、日本語を勉強しようとする米国人が増えてきたことは日々の付き合いの中で感じてきたところです。2015年4月の日米首脳会談後にホワイトハウスで行われた公式晩餐会で、オバマ大統領が英語で俳句を詠んだことがあります。興味深い内容なので引用(日経新聞だったかと……)しておきますが次のようなものでした。

Spring Green and Friendship

United States and Japan

Nagoyaka  ni

「春緑 日米友好 和やかに」

 米国大統領が日本の俳句を詠んだこと、またその効果はいかばかりのものかということもあると思います。小学校で英語を教えることの是非などについてもそれぞれにメリット、デメリットがあるとは思いますが、外国の文化や言語に親しむ必要のあることは誰もが認めるところだと思います。

 しかし、近代日本において一時期、英語を「敵性語」などとして国内で使わせないといったことが真顔で行われていたこともあり、当時は日本中で本気で行われていたことも事実です。野球の試合でアウトもセーフも使えなかったという笑い話にもならないような逸話も残っています。しかし、日本海軍では終戦まで英語教育を行っていたということがよく言われています。海軍部内で英語教育は当然行っていたのですが、海軍兵学校の入学試験科目には最後まで英語が残っていたのです。それは最後の海軍大将として有名な井上成美校長の考え方によるものと言われています。受験に英語のなくなった陸軍士官学校に優秀な受験生が流れてしまうことを恐れて、海軍兵学校では英語を受験科目から外すことも検討され、教官陣にも賛同した人が多かったともいわれていますが、井上校長は頑としてなくそうとしなかったそうです。これらのことは、思考が内向きになっていた陸軍やその影響下にある国内情勢に反して、海軍の先進性や視野の広さを表すこととして語られることが多いと思います。もちろん井上校長は海軍軍務局長時代に日独伊三国軍事同盟に強硬に反対した一人であり、井上校長の卓見であろうとは思いますが、私は必ずしもそればかりではないと思っています。というのは、当時精神力のようなものが強調された時代にあって、精神力では対応できないという海軍ならではの必然性があったのです。それは、人を戦いの基礎としていた陸軍と艦や航空機というものを基礎としている海軍との違いであろうと思います。

 艦や飛行機を扱う中で、エンジンを原(発)動機、ボイラーを蒸気罐というくらいは問題ないと思いますが、シャフトは軸、クランクシャフトは回転軸(?)、タービン、シリンダー、ピストン、ピストンリングとなるともう日本語に変換しているうちに艦や航空機はどんどん進んでしまいます。そのため、英語を使わないことには仕事が進まない、戦うこともできなくなってしまうのです。そもそも日本海軍は英海軍に学んで発展をしてきた経緯もあり、良くも悪くも妙な横文字が氾濫している社会でもありました。艦長をケプ(キャプテン)と言い、その延長でガンルーム(士官次室)の先任者をケプガン(キャプテン・オブ・ガンルーム)といったりもしています。

 芸者をあげての痛飲等もエス・プレイ(エスはsingerの頭文字)といい、横須賀の名物料亭「小松」は通称「パイン」と呼ばれていたそうです。もちろん、操艦号令は「面舵(おもかじ)」「取舵(とりかじ)」ですが、声に出して発する際の抑揚が「おもーかーじ」「とーりかーじ」となっているのは、英語のStarboard とPortのイントネーションをそのままにしているのであり、現在の海上自衛隊においてもそのまま使われています。「ヨーソロー」という言葉も本来は「よろしくそうろう」を短くしたものだそうですが、イントネーションはSteady(針路そのまま……)と同じなのだそうです。

 余談ですが、そもそも日本に英語が入ってきたときにさまざまな錯誤というか聞き違いということで、言葉や名称になっているものもありますよね。「アイロン」はironから、「ミシン」はsewing machine、「ワイシャツ」はwhite shirtという言葉を日本人が耳で聞いて勝手に認識したとも言われています。確かに文字として読むのではなく、言葉として耳で聞いたものは、本来の英語に近い言い方でそのまま名称になっているのはおもしろいことです。ちなみに、私が防衛大学校を卒業して江田島の幹部候補生学校に入校したときに貸与されたカバンがありました。今は黒の手提げカバンが使われているようですが、私たちの頃は白いズック生地の持ち手がなくわきに抱えるものでした。それは海軍兵学校の生徒も使っていた「ベグ」と呼ばれるものでした。教官に「何でベグなのですか?」とある候補生が聞いたときの教官の答えは次のようなものでした。

教官:それは何だ?

候補生:カバンです

教官:英語で言ってみろ

候補生:バッグ

教官:ちゃんと英語らしく発音しなさい

候補生:バッグ……?、ベッグ……?、ああ、ベグですね

……一件落着……

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