第89回:自然の中に生きる « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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紺野真理の「海軍におけるマネジメント」(艦隊勤務雑感)
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第89回:自然の中に生きる

※弊社のメルマガに、以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、20年前に書いたものではなく、退職後29年を経過してしまいましたが、現在の私が思い起こして感じていることを書かせていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 毎日のように暑い夏の空が続いていたかと思ったら、このところ、梅雨でも、台風でもないのに長々と雨の降る毎日が続いて、またまた各地に被害が出ているところでもあります。どのような変化をするかはすべて自然のなせるところであり、人知の及ぶところではありませんが、私たちはその都度自然の存在を感じていることと思います。とはいえ、みなさん、お忙しい毎日の中、晴天であろうと曇り空であろうと、ゆっくりと空を見上げたことはありますか。日中であれば、さんさんと輝く太陽と青い空、そして季節によって変わる雲、夜になると真っ暗な空に明るく輝く月、そして神秘的に輝く星などが見えています。どんなに文明が発達しようが、われわれは自然の中に生きていることは間違いのないことです。しかし、忙しさの中で、あるいは何もかも便利になったことで、本来われわれの諸先輩が自然を見て感じとってきたことを忘れてはいないでしょうか。私は、護衛艦乗りとして海の上で多くの時間を過ごしてきたこともあり、そのような自然の動きに敏感になっていたのであり、そんな習性というものは今でも変わらずに私の中に残っているものがあります。今日はそんなことの一端をお話ししてみたいと思います。

 子どもの頃、夕焼け空が見えると、「明日は晴れだ‥‥」などと言ったことは皆さんもご記憶にあると思います。日本付近では天気は西から変わってくるので、西の空から夕陽がしっかり照らしているということは、明日も雲は近づいてこないということなのですが、そんなことは至極当たり前のことでもあります。車で走っていて道に迷ってしまったようなときに、私が、「ああ、こっちが南ですから取り敢えずそこを左折してみましょう」などと何気なく言うと、同乗している方から、「え‥‥、どうしてわかるんですか?」と聞かれることがあります。その時は正午に近い午後1時前くらいでしたので、太陽が南中(東から昇って西に沈む間のちょうど中間地点)する時でもあり、太陽のある方角がほぼ南であることは当然のことなのです。夜空を見上げて北極星が見えればその方角が北ですが、北極星の見つけ方というのも小学校で習った覚えがありますよね。カシオペアからでも北斗七星からでも、たどっていけば、北の空の高度35度付近に北極星は見つかります。私が昔驚いたことには、赤道付近に行くと、北極星と南十字星が同時に見えるところがあるということでした。遠洋航海で初めて赤道を越えた時には、艦内に、「赤道まで5マイル」というマイクでの案内があり、最後には、次のような案内となります

「赤道まで1マイル」

「赤道が見えた‥‥」

「ただいま、赤道通過」

という案内がなされていました。もともと海軍はユーモアを大事にするところではありますが、誰がどこまで信じていたのかは定かではありませんが‥‥。初めて赤道を通過する際には、「赤道祭」が行われるのも伝統ということで、赤道の神様から艦長が「赤道通過の鍵」をいただくという儀式も行われています。

 月というのはいろいろな意味で私たちの生活に影響を与えています。潮の満ち引きというのはまさに月の影響でもあります。仲秋の名月などといって美しい満月を見上げてうっとりすることもあれば、昼の日中に空高くに見える白い月に何とも言えない感慨を持つこともあるでしょう。しかし、みなさんは月がいつ頃昇っていつ頃沈むのかってご存知でしょうか。海の上にいると、「晴天の暗夜」という言葉があるとおり、船乗りにとっては新月の夜は大変に怖いものです。広い海の上で、何も見えないのですから、大きな恐怖感というものが湧いてきます。もちろん、往き合う船がある場合には灯火をつけているであろうことは当然のことであり、レーダーである程度の距離であれば付近を航行中の船の存在は確認できます。しかし、人間の心理的な恐怖感というものは、そのような理屈だけでは割り切れるものではなかったように思っています。ですから、たとえわずかな三日月であっても、空に月があるというだけで、どれだけほっとしたものか、ということなのです。小さな三日月があるだけでも、水平線までもがはっきりと見えるのです。月には月齢というものがあって、わかりやすく言えば、0からはじまって30まで、ほぼひと月という期間の中で、新月が三日月、半月となり、満月となって、また新月へと欠けていくのです。今夜は何時くらいに月が出るのだろうか、というのは夜間の艦橋の当直に立つ際の大きな関心事でもあったのです。与謝蕪村が「菜の花や月は東に日は西に」と詠んだとおり、ちょうど太陽が西の空に沈む頃に東の空から上がってくるのが満月なのです。やや乱暴ながら結論的に言えば、満月というのは季節によって多少のずれはありますが、ほぼ日没に近い午後6時くらいに東の空から昇ってきて、翌朝太陽が昇る頃に西の空に沈むということなのです。

 今の季節、台風が日本列島に接近してくることも多く、いつも心配させられるところです。私たちがテレビのニュースで、台風の位置情報を見ることも多くありますが、その際の台風の進路に対して右側の半円と左側の半円とでは危険度が違うことをご存じかと思います。わかっている方には当たり前ではあっても、あまり関心を持っていない方には、どうでもよいことなのかもしれません。しかし、護衛艦で海の上で台風に遭遇してきた身にとっては、それは大変に大きな違いのあることでした。一言でいえば、台風の進路に対してその右側部分は「危険半円」と言われて、極力近づかないようにする範囲であり、左側部分は「可航半円」と言われて、どちらかと言えば航行せざるを得ないときにはこちら側を通ることが望ましいと言われているところです。それはなぜかというと、台風は勢力の強い低気圧のことですから、北半球においては中心に向かって反時計回りに風が吹き込んできます。そのため、右側の半円では、台風そのものの速度で風の強さが加算されるため、より強い風が吹く範囲になるということです。

 風の強さということであれば、護衛艦には風力計というものがあって、風向風速は一目で分かるようになっていますが、風力計など見なくとも、海面の波立つ様子を見ているだけで風の向きと概ねの強さはわかります。若い頃に、艦長から「今風はどっちだ?」と聞かれて、風向計を見て答えようとした途端に後頭部に平手打ちを食わされたのを思い出します。沖合に錨をおろしている船を見れば風向がわかります。錨をおろして停泊している船は、すべて風の吹いてくる方向に船首を向けています。潜水艦は水中にある体積が大きいため、風の影響より潮の流れの影響を受けるため、風ではなく潮の流れてくる方向を向いているのですが。みなさんも、たまには太陽や月の昇り方、沈み方や風の向きなどにも少し興味を持っていただくことで、われわれを囲む自然に親しむ機会が多くなるかもしれません。そして、それによって、世の中の見え方が少しだけであっても変わってくるかもしれませんね。

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