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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第19回:感覚(勘)を磨く

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、退職後19年を経過した現在の私が当時を思い起こして感じていることを書かせていただきました。これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何となしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

海上自衛隊の護衛艦の中では、「艦乗り(ふなのり)に必要なものは能力ではなくセンスだ」ということがよく語られていました。「あいつは操艦(艦を操る技術)のセンスがない」「潮気(しおっけ)が抜けている」などと人を評する言葉も良く聞かれました。その一方で、「操艦は7分の理論と3分の勘」とも言われていました。

その意味するところは、緻密な数値分析や論理思考の積み重ねを通して、それを自分自身の直感として判断できる根拠に変換していくということが求められているのだと思われます。「数値分析だけでもだめ」「勘だけに頼ってもだめ」というわけです。このことは、どのような仕事においても当てはまることだと思います。

みなさんはご自身の仕事において、データや数値に基づいてロジカルに考えることと同時に、自らの経験に基づく直感(勘)によって感覚的に判断することの必要性というものを日々感じておられると思います。私の経験した艦(船)での仕事もまさにそれらの両方を必要とされていましたが、風潮としては、結果として表される直感力の鋭さに憧れるところがあったものと思います。もちろん、何の根拠のないままの直感(勘)などというものはあり得ない事であり、自分の中での意識的な経験の積み重ねとその体系化(形式知化)が研ぎ澄まされた感覚を生むのだと思います。どんなことにおいても、無意識にやっているのでは、この直感(勘)を研ぎ澄ますことには役立たないということかもしれません。

艦に着任すると、まず、「艦橋要表」というドキュメントがあり、これをしっかりと頭に叩き込むことが求められます。艦の基本的な要目から、操艦に当たって認識しておくべき艦から見たときの外周にある地物までの距離など、あるいは、就役の際、あるいは長期の定期修理の後などで計測されたその艦の運動特性などが事細かに記載されています。例えば、ブリッジのウィング(張り出し)に立った時に、艦首の見通し線、旗竿の見通し線として認識できる海面上の艦首からの距離は○○メートル、などと表示されています。また、○○ノットで航走中に、「両舷停止」という号令をかけてから停止するまでの時間と航走距離、あるいは「面舵一杯(舵を右に30度取ること)」と号令をかけたときの旋回径と所要時間などがその区分ごとに記載されています。

これらを頭に叩き込んだ上で、実際に艦を動かしてみてその状況を把握しながら、何か事あるときに、データに基づいた上での自らの直感(勘)を磨いていくのです。そして、その積み重ねの中で、自らのデータと直感(勘)を頼りに艦を動かしていくわけです。また、簡易的な略算式というものもたくさんあります。一例を示すと次のようなものがあります。

(1) 2度1分ノットメーター

それまでの針路に対して、針路を2度開いて進むと、1分間でその速力(ノット)と同じ数字をメーターにした距離だけ横方向にずれていくことを表します。4度開くとその2倍、6度開くとその3倍ということになります。

(2) 6度1割

自艦から目標や相手艦を見たときに、基準方位から見て6度ずれていると、そのずれている距離は、直距離に対して1割の長さであること。9度だと1.5割、12度だと2割、30度だと5割(半分)いうことになります。考えてみると私たちが良く使う三角定規がわかりやすいと思いますが、ひとつの角度が30度の直角三角形の3辺の比が1:2:√3というのは、このことを示していることとなります。

ただし、艦というものは海という自然の中にしか存在しえないため、波の影響、風の影響、天候の影響を受けることとなります。机上の理論どおりに動くことはないので、どうしても直感(勘)が重要となり、それを重視するあまり、理論やデータを軽視するという風潮があることも事実です。このような風潮や意識を戒めデータの上に立った直感(勘)を養うことが重要なものであることを私の経験は教えています。

最近、日常生活の中で、ふとしたときに海という自然を相手に、生きてきた自身のあり方を思うことがあります。例えば、街を歩いたりドライブをしていたりしていて、おおよその方角を知りたいとき、ふっと空を見上げて太陽と時計を見ればおおよその見当はつきます。夜であれば星を見ればおおよその方角はわかります。満月に近い日には、午後6時を過ぎる頃には当然のように東から月が顔を出します。港の沖に錨を打って停泊している艦(船)を見れば、風向きがわかります。錨を入れている艦(船)は、みな風の吹いてくる方向を向いています。

ちなみに潜水艦は浮上中であっても海中に沈んでいる部分が大きいため、錨を入れると風ではなく潮流の方向に向いているのですが。このような私の習性も、長い海上生活を通して私が得た直感というものの、ひとつの形としての表れなのかと思っています。

▽最後に・・・▽

皆さま、いかがでしたか?

来月もまた、皆さまのお役に立てるような内容をお届けしたいと思います。

是非ご期待ください。

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