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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第90回:ドローン

※弊社のメルマガに、以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、20年前に書いたものではなく、退職後29年を経過してしまいましたが、現在の私が思い起こして感じていることを書かせていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 みなさんは、さまざまな分野への応用が可能な小型の無人ヘリコプター「ドローン」のことはよくご存じのことと思います。数年前には、勝手に都内の建造物上空を飛ばしたり、首相官邸の屋上にまで墜落したりするなど、世間を騒がせていました。ここ数年に耳にする話としては、人の近付けない地形の調査、災害時における情報収集や捜索、果てはピザの宅配まで、さまざまな分野にその用途は広がっているようでもあり、操作性、信頼性もかなり向上しているように見受けられます。

 しかし、海上自衛隊においては、1967年3月に就役した護衛艦「たかつき」からドローンを対潜水艦攻撃用兵器として運用していたことをご存じの方は少ないと思います。1967年と言えば、今から50年以上も前のことですから、現在の海上自衛官の中でも実際の運用を目にした方は残っていないのではないかと思われます。護衛艦「たかつき」は私たち27期一般幹部候補生課程出身者の国内巡航並びに遠洋練習航海に、練習艦「かとり」に随伴艦として同行した艦でもあり、私にとっては馴染み深い艦でもありました。実習期間中にそのドローンの発艦、着艦、飛行の展示を見たことも記憶にあります。

 

 

 

 

 

 

 

 では、そのドローンとはいかなるものかについて説明しましょう。名称はQH-50D DASH(Drone anti-submarine helicopter)と言います。海上自衛隊では第2次防衛力整備計画で建造する護衛艦への搭載が計画され、護衛艦「たかつき」型4隻、「みねぐも」型3隻に搭載されました。300馬力のターボ・シャフト・エンジンを搭載し、二重反転ローターによって飛行し、Mk(マーク)44魚雷2本を装備可能だったものです。運用方法は格納庫後方にある管制所からのコントロールで目標海面まで飛行し、艦からの水中攻撃指揮装置(FSCS)の指示で魚雷を投下して帰艦するというものでした。主要諸元は次のとおりです。
全長 (ローター除く): 2.33m 全幅 (ローター除く):1.60m ローター径:6.10m 高さ:2.96m 重量:1060kg
長さ2.5m程度のMk44魚雷2本を腹に抱くのですから、現在のドローンからは想像し難い大きさです。
最大速度:148km/h 戦闘行動半径:74km 上昇速度:145m/min 実用上昇限度:4790m

 有効な潜水艦に対する攻撃手段として期待されましたが、米海軍では運用中の事故が多発して損耗率が高く、1970年に使用を中止して生産を打ち切られてしまいました。海上自衛隊での運用は順調であり、DASHの運用には自信を持っていたのですが、米海軍での使用中止を受けて部品補給の見通しが立たなくなり、1979年に使用を中止することとなりました。
なぜ、私がDASHについて多少なりとも知っているかというと、私の3隻目の乗艦が「みねぐも」型の2番艦「なつぐも」であったからなのです。私は1981年7月に呉の第3駆潜隊「おおとり」(砲雷長)から、同じ呉の第22護衛隊「なつぐも」に航海長として異動し、1982年7月までその職にありました。26歳で当時の海上自衛隊の精鋭部隊、第1護衛隊群の艦で航海長を拝命したことは、大いに名誉に感じられるとともに、高い緊張感を持ったものでした。先に海上自衛隊でのDASHの運用は順調であったと書きましたが、艦の運動をすべて自ら行なわなければならない航海長にとって、DASHは大変扱いにくい存在であったことが思い出されます。発艦、着艦時には定針、定速が求められますし、飛来する有人ヘリコプターとの関係も考慮せざるを得ません。現在の小型のドローンを掌の上からいとも簡単に上空へ飛ばす様子を見ていると、同じドローンとは思い難いものがあります。第1護衛隊群には、海上自衛隊としては当時最大の「はるな」「ひえい」という5000トン程度の艦が2隻で第51護衛隊を編成しており、最大6機の対潜ヘリコプターの運用が可能となっていました。そのため、いざ潜水艦を探知したといっても、有人ヘリコプターが真っ先に発艦して潜水艦の捜索、攻撃に当たるため、DASHの出る幕は極めて少なくなっていたのも実際のところでした。そのため、発着艦の訓練は何度も実施されてはいたものの、実際のオペレーション場面でDASHを飛ばして潜水艦を追い詰めたという経験は数えるほどしかありませんでした。幸いにも私が「なつぐも」に乗っていた1年間に、第22護衛隊の「みねぐも」「なつぐも」においてDASHの墜落等の事象は一度もなく終わりました。(あと1隻の「むらくも」は改装されてDASHの代わりにアスロックランチャーを搭載していました。)

 ではなぜ、DASHなるものが海上自衛隊の護衛艦に装備されたのでしょうか。もちろん当時から米海軍の使っているものを導入するということが当たり前のように行われていたことは否定できないことと思いますが、高速で逃走をする潜水艦に対して、護衛艦のソーナーの探知距離の増大ともあいまって、一定の射程しかないアスロック(ロケットで魚雷を潜水艦の近傍まで飛ばすもの)や発射管からの魚雷では対処できない範囲を効果的にカバーして、攻撃を可能ならしめる貴重な兵器という位置づけであったものと思われます。しかし、「みねぐも」の就役が1968年、有人ヘリコプターを搭載した「はるな」の就役が1973年、両者の間には5年の差しかありません。みねぐもの就役した年には、はるなの建造が開始されていたと思われますので、この間におけるDASHの有用性もさることながら、人が搭乗して運用のできる有人ヘリコプターの有用性も強く認識されていたことと思われます。極論すると、米海軍の状況を見て、DASHを装備しようと考えた5年後くらいには、有人ヘリコプターを搭載するこれまでにない大型の護衛艦を建造しようという動きが始まっていたことと思われます。そのように考えてみると、装備の進歩、戦術の変化のスピードというものが、その当時でさえかなり速いものであったということが言えると思います。そうしてみるとDASHなる兵器は、有効なものとしてその装備が計画され、その目的に応じた性能も有していたのですが、採用された直後からすでに時代遅れになっていたと言っても過言ではなかったのかもしれません。

 現在、ドローンが当たり前のようにどんなところでも手軽に使うことができ、災害時の情報収集から行方不明者の捜索まで、また、先にも述べたとおり商品のデリバリーにも使われるなど更に活躍が期待されているところです。近年は、より大型のドローンによる空飛ぶタクシーなどというものまで試作されているのは驚くべきことです。しかし、そんな空飛ぶタクシーの実験の映像を見た私の眼に映ったドローンには、その大きさのイメージからも、42年前に見た「なつぐも」の甲板から発艦していく「DASH」の姿を彷彿させるものがありました。私の目に、DASHの再来ではないかと思わせるものがあったことは、私の中にある昔を懐かしむ意識のなせるわざだったのかもしれません。そのドローン自体も今後ますますスピードを速めながら進化を続けていくと思われますが、私たち自身が時代の変化に取り残されて、DASHのような運命を辿らないようにと祈りたいところでもあります。

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