第69回:神頼み(金毘羅詣) « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第69回:神頼み(金毘羅詣)

※弊社のメルマガに以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
20年前に書いたものではなく、退職後25年を経過してしまいましたが、
現在の私が思い起こし感じていることを書かせていただき、
今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、
主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいります
のであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

みなさんは、一度でも海上自衛隊の艦艇というものに乗ったことがあるでしょうか。できることなら一度でよいので乗ってみてください。これまで私も海上自衛隊OBとして多くの方々を護衛 艦や潜水艦見学にお連れしておりますし、中には、体験航海の艦に乗っていただき、短時間ではあるものの実際に洋上での艦の動きに触れていただいたこともあります。乗艦された方の反応は人によりさまざまではありますが、そんな反応とは別にみなさんが驚かれるのは、どの艦にも「神棚」が設置されていることです。もちろん、神棚ですから形だけ作っても仕方ないので、実際にある神社にお願いをしてお札をいただき、神棚にお祭りをしています。どこの神社から頂くかということにはあまり決まったものはないようで、艦名に由来しているものもあれば、定係港近くの由緒のある神社から頂いていたりするようです。とはいえ、神様をお祭りしているものなので、乗組員は一様にその神様には敬虔なる祈りの気持ちを持って接しております。船乗りというものは昔から縁起とか迷信や語り伝えられたものを大事にしてきています。特に、射撃訓練の前になると、砲雷長以下、射撃関係員は一様に神棚に向かって祈りを捧げてから訓練に入るのが習わしになっています。正に「神頼み」なのであります。第33回「逃げ場のない世界」で書いたとおり、「海の上にいると、平穏な毎日が続くものではありません。何日かおきかには低気圧や台風が通過します。荒天になると、誰がなんと言おうとその中に身を置くしかなく、天候の回復を神様に祈るしかありません。」ということとなります。本当に困った時の神頼みなのです。

みなさんは日本全国共通の「船の神様」というのはご存じでしょうか。私は毎年、香川県の琴平に歌舞伎を見るために出かけていきます。「金毘羅さん」の参道の登り口近くに「金丸座」という江戸時代から続く芝居小屋が残っていて、4月の時機だけいろいろな役者さんが交代でやってきて、2週間ほどの興行を行っており、「こんぴら歌舞伎」などとも言われています。今年は、4月7日から22日にかけて、中村芝翫(元橋之助)の襲名披露が行われるようです。私も芝居見物とともに金毘羅宮には必ず参拝に行きます。奥社(厳魂神社)まで行くと1368段、それを登るのは日頃運動をしていない方にとってはそれなりにきついものと思われますが、ぜひ一度お出かけすることをお勧めします。785段を登り終えたところに「本宮」がありますが、その脇にいろいろな船の写真を飾っているところがあり、中に海上自衛隊の護衛艦等のものもあります。また、その奥には海上自衛隊の護衛艦、練習艦等の名称の幟の立った樽が置いてありますが、これは何か、みなさんおわかりになるでしょうか。(写真をご覧ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金毘羅さんが船の神様であることは先に述べたとおりですが、海上自衛隊でも金毘羅さんには機会あるごとにお参りに行きます。私が初めて行ったのは防大2学年の夏の護衛艦実習の時であったと記憶しています。護衛艦「あけぼの」で高松に入港してバスで連れて行ってもらったと思います。その後2等海尉になって呉の駆潜艇「おおとり」の時にも、丸亀に入港した際に乗組員と一緒にお参りしましたが、それ以後、海上自衛隊在職中に直接金毘羅参りをしたことはありません。基準排水量1,060トンの「あけぼの」、同じく420トンの「おおとり」なら可能でも、2000トンを超え、3000トン、5000トンと大型化する近年の護衛艦では近傍の港に入港するのも困難かと思われます。しかし、練習艦隊「かとり」での実習幹部であった時と、初めて実際の勤務をした護衛艦「あきづき」では興味深い経験をしました。実際に金毘羅参りに行けない艦としては、次善の策なるものがあるのです。岡山と香川の間にある「備讃瀬戸航路」を通る際に、近くで漁をしている漁船に手を振ってから、中に供物やお金を入れた樽を海に投げ入れるのです。それを見た漁師さんは、近づいてきて樽を拾ってわざわざ金毘羅宮まで届けてくれるのです。漁師さんにとってもその樽を拾うことは縁起が良いことだそうで、多少なりとも何かをいただけるのかもしれませんが、届かなかったことはないという話を聞いています。今でもそんな風習は続いているところが艦(船)というものの面白いところでもあります。「海」を生活と生業の場としている者同士には、互いの安全を祈るという共通の意識があるものと思っています。昨年(2017年)、NHKの「ブラタモリ」でもこの護衛艦の樽は取り上げられていたことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。

 

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