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紺野真理の「海軍におけるマネジメント」(艦隊勤務雑感)
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第75回:幹部への信頼(発光信号のこと)

※弊社のメルマガに以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
20年前に書いたものではなく、退職後27年を経過してしまいましたが、
現在の私が思い起こし感じていることを書かせていただき、
今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、
主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいります
のであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 自衛隊においては、第6回「階級制度」でも書いたとおり階級というものが明確であり、それが外に見えるように明示されています。階級についての意識はひとつひとつの階級が何かという以上に、将校(幹部)、下士官(曹)、兵(士)という区分があり、その間には物理的にも、精神的にも大きな違いがあるようです。しかし、陸、海、空の別を問わずに現場において力を発揮するかしないかは、特に、将校(幹部)と下士官(曹)との間の信頼関係というものが大きく影響することは間違いのないところです。企業において、管理職とその組織を支えるベテランのリーダークラス、あるいは工場の管理職とベテラン職長クラスとなどとの関係と置き換えることができると思います。しかし、現実には個人としての信頼関係とは別に、全体として、「幹部は‥‥?」「幹部のやることは‥‥?」と現場感覚での批判や批評を受けることもあります。企業における管理職という立場もそのようなところがありますよね。今回はそんな下の立場からなされる批判の要因となっていることについてお話ししようと思います。

  昭和55年7月から1年間、私が護衛艦「なつぐも」航海長として勤務していたときのことです。当時海上自衛隊の最精鋭部隊であることを自負していた第1護衛隊群と第2護衛隊群が、相互に審査員を派出して訓練検閲を実施したことがあります。「なつぐも」をはじめとした第1護衛隊群は群訓練の途中で江田内(江田島湾)に立ち寄り停泊、そこでハンドボール競技を行った後に出港、大分県の佐伯湾において待機しました。遅れて佐伯湾に到着した第2護衛隊群と会合した後、2日ないし3日の間隔で一方が出港して訓練を行い、他方は審査員を派出するものの主体は佐伯湾で停泊、待機して準備という変則的な進め方でした。航海長である私は、自隊の訓練が終わり佐伯に入港するとすぐに、航海関係、艦橋まわりの審査員として第2護衛隊群の艦に乗り込んで、今度は審査員になるのです。ハンドボール競技で3試合を行った後ただちに出港したこともあり、ただでさえきつい訓練の前後に審査員の役割が求められることには、いささか閉口したのを覚えています。佐伯湾入港後に休む間もなく第2護衛隊群の審査対象艦の「あおくも」に乗り換えて出港します。訓練海面に着くまでは幹部の個室を借りて休むことはできましたが、審査の準備も十分ではなく、その資料や審査項目の確認などのため、ゆっくりと休む暇はありませんでした。「あおくも」の信号員長であったA1曹は、私が審査員であったから当然なのかもしれませんが、いろいろと丁寧に艦や航海関係の状況、私の1年先輩である自艦の航海長のことなどについて説明をしてくれ、何くれとなく気を配ってくれていました。とはいえ、企業の工場でいえば現場のベテラン職長クラスの人ですから、若い幹部(管理職)に対する厳しい目も多分に持っており、後ろ向きではないものの、言葉の端々に皮肉めいた言葉も聞かれたことを覚えています。
 
 その中でも私が忘れられないのは、他の艦から発光信号のあった時に、艦橋にいた航海長も含めて多くの幹部が、何も考えずに「発光、発光」と怒鳴って信号員の注意を喚起することです。これは他の艦でもよく見られる光景でもあり、発光信号等の送受信は基本的にプロの信号員である航海科員の仕事です。私自身日頃から、ちょっと見ればわかるものを、他艦からの発光信号が明滅しただけで何も大声で叫ばなくてもいいのに、と懐疑的な気持ちをこれまでの経験で持っていたことは確かです。その時は、信号を送ってきている艦が、「ゆうぐも」(艦番号121)であることは艦の占位位置から明らかであり、最初に送られた信号はコールサイン(呼び出し符号)である、「― ・・(:D)   ― ― ― ― ―(:0)」)だったのです。「D0」すなわち、艦番号120の「あきぐも」を呼んでいることは明らかなのです。「発光、発光‥‥」とただ叫んでいる「あきぐも」の幹部を横目で見ながら、私は深い意味もなく、「うち(あおくも)じゃないよ、『あきぐも』(艦番号120)を呼んでいるだけだよ‥‥」と言いました。その時の信号員長A1曹が、「あれ、なつぐも航海長、発光読めるんですか?」と来ました。「コールサインくらいは誰でも読めるでしょ」と言うと、「いやいや、幹部でそんな人いませんよ」と、褒められたのか、皮肉られたのかわからない一言が飛んで来たのです。(当時の艦番号 119:あおくも  120:あきぐも  121:ゆうぐも  117:なつぐも)

 発光信号や手旗信号など視覚信号の送受信は、航海科員である信号員の仕事でもあり、実場面での読みとりや送受信は彼らの独壇場でもあります。しかし、幹部とはいえ、候補生学校ではかなりの時間を割いて訓練が行われ、課業外の時間を使って練習をしたりもしており、ましてや実働部隊では訓練中には日常的に目にしているものでもあるので、それなりにはできるはずなのです。最初に指呼された際に、誰が誰を読んでいるのかの判別はついて当たり前であるのに、明滅する光を見たとたんに、何でもかんでも「発光、発光‥‥!」と叫んでしまう幹部が多いことに問題があるのです。航海科員はその度に慌ててやっている業務を手放して受信の準備をするのですが、結局自艦とは関係ない艦を呼んでいたりして、気勢をそがれることが多いのです。それが、ベテラン海曹(下士官)から幹部が信頼されないところの要因の一つになってしまうのではないか、と感じたりもしたものです。もちろん、幹部と海曹との間にはその職分は明らかに異なるものですが、現場のことを理解しようとせずに指示だけする、ましてや大声で叫ぶだけでは信頼はされないことと思います。現場のことに無頓着なまま、ただ指示するだけの企業の管理職というものが、部下から信頼されないことの根底にあるものは共通していると思っています。

 ちなみに、私が若いころ米海軍の若手士官と飲んでいる際に、「JAPAN NAVYのPETTY OFFICERは世界一だ」と言われたことがあります。(もちろんではありますが、海上自衛隊などとは言ってくれませんし、英語でMARITIME SELF DEFENSE FORCEなどと伝えても伝わるわけではありませんが。)確かに、私も日本海軍の下士官は世界一だと戦前から言われていたという話は聞いたことがありますし、海上自衛隊の経験にもいても、私自身もそれには納得もしていました。それだけ、戦前から、そして現在に至っても日本の海曹(下士官)の教育レベルや意識レベルが高いということと思われます。そこで、「OFFICERはどこが一番か‥‥?」と質問をすると、かの少尉君、ニヤッと笑いながら、「『No.3はドイツ‥‥』『No.2はイギリス‥‥』だね」と言います。ではNo.1は、というのは当然の質問なのですが、答えを待っていると、「UNITED STATES No.1」というのです。そこまで言い切る自信というか厚かましさというか、それはそれで敬愛するものではあったのですが、現在の米国大統領の言葉を聞くにつけ、なるほど、という気もしてくるものです。
(次回は、そんな米海軍から私が学んだことについてお伝えしたいと思っております。)

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