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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第12回:号令

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、今回から15年前に書いたものではなく、退職後19年を経過した現在の私が思い起こして感じていることを書かせていただきました。
 これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。
 

 みなさんは「号令」というものをご存知ですか。自衛隊という組織の象徴的なものとして、「気をつけ」「右へならえ」から、果ては大砲、ミサイルの「打ち方始め」や沈んでしまう艦はなれる際の「総員離艦用意」に至るまで、指示、命令の多くは「号令」という定められた形式でなされるものです。一般の指示、命令と異なるのは、その「号令」を受けたものがとる行動、動作というものは、そのほとんどが形として定められており、基本的な部隊行動は全て整斉とその「号令」どおりに動かしていくことができるわけです。それは、陸・空自衛隊においても同様です。
 しかし、定型的な日課の流れ以外のところでは、海軍の伝統を受け継ぐ海上自衛隊だけは、陸、空自衛隊と大きく異なっています。それが最も良くわかるのは、朝の「分隊整列」(いわゆる「朝礼」)の際です。自衛隊の勤務は朝の国旗掲揚で始まります。艦隊では日の丸の国旗ではなく「自衛艦旗」という昔の軍艦旗ですね、これが艦の後部の旗竿に掲揚されます。日の丸の国旗は、「艦首旗」といって艦の舳先の旗竿に掲揚されます。陸・空自衛隊では、全員が整列して、国旗掲揚の5分前になると、全員を国旗の方向に向かせるため、例えば、「右向けー右」と号令がかかり、全員がその号令に従って国旗の方向に向きます。朝8時になると、ラッパの合図とともに、「気をつけ」「敬礼」という号令がかかり、全員が一斉に掲揚される国旗に対して敬礼をします。
 ところが、海上自衛隊においては、(と言っても、ここでは艦隊についてお話しするのですが)次のようになっています。もちろん、海上自衛隊である以上、航空部隊でも、学校でも基本的には同じです。まず全員が艦の前の方を向いて、勝手に、というか、ほぼ列を作って並んでいます。護衛隊(群)司令、艦長が順番に前から現れますが、その際、誰も「号令」をかけずに、ひとり一人が勝手に、「気をつけ」の姿勢をとり、そして、「おはようございます」の声とともに敬礼をします。護衛隊(群)司令、艦長は「おはよう」と言いつつ答礼をして、自衛艦旗の方向に向きます。次に艦長への挨拶が終わると、全員が、艦の後部の旗竿の方向にこれも「号令」なしにかなりばらばらに向き直ります。8時になると、ラッパとともに、当直士官は自衛艦旗を掲揚する当直員に「号令」はかけますが、他の隊員は「号令」なしに勝手に「気を付け」をして、自衛艦旗に敬礼をします。自衛艦旗の掲揚が終わると、これまた、何の「号令」もなく、勝手に分隊ごとに概ねいつもの位置に集合して整列をします。この際も誰も号令はかけません。
 整列を確認した分隊の先任海曹(下士官の最先任者)は、人数を数えて異状がなければ分隊長(その分隊の長である幹部)に「よろしい」と報告をします。
 こうして、朝の朝礼のようなことが行なわれます。もちろん、陸・空に見られる整列して行う「点呼」(番号、1・2・3‥‥)などというものは、海上自衛隊には基本的にありません。
 私は学生時代に初めての護衛艦実習で、この光景を見て大変に驚いた覚えがあります。
防衛大学校で慣れ親しんでいた陸上自衛隊の常識的感覚から見ると、「何としまりのない」「いい加減な」ものと感じてしまいました。
しかし、この違いはなぜでしょうか。どこからこのような違いが来たのでしょうか。
もちろん、これは、旧帝国海軍以来の伝統でもあるのです。
 結論から言えば、それは組織としての闘い方、あるいは仕事の仕方の違いから来るものなのです。現在の陸上自衛隊は必ずしもそうではないのですが、陸軍というのは、基本的に多くの人員を並べて、「号令」ひとつで効率的に部隊を動かす必要があるため、日常から「号令」に即応できるようにしているものと思われます。ところが、艦や飛行機を基本とする海上自衛隊(海軍)では、初任の水兵であっても、艦の中では重要なバルブの操作などを任されたりします。いざ緊急時に、艦内は連絡手段さえ途絶えることにもなり、最後は経験のない水兵であっても自分の判断でバルブの開閉をしなければならない事態が想定されます。そのため、日常から上司の指示、命令だけではなく、その場において「今、自分は何をすべきか」を良く考えて行動することが求められます。海上自衛隊においては、日常の積み重ねを通して、人が自ら考えて動くような仕掛けを作っていると言えます。
そうしなければ、艦長などは怖くて、乗組員にそれぞれの部署での配置を任せてはおれないでしょう。
 もちろん現代においては、陸・空自衛隊であってもひとり一人が自ら判断することの必要性は高まりこそすれ低いことはないと思いますが、そこが伝統というか、組織文化というか、
「号令」という面では今でも同じような形式で行われているものと思います。組織の伝統、文化と新しい時代の波への対応との狭間で揺れ動くのは、組織である以上、自衛隊でも企業でも同じことかもしれません。ちなみに、海上自衛隊における「号令」の中で、今でも私が解しかねるものに、「総員起こし5分前」というものがあります。これも、護衛艦実習で初めて耳にして驚いたことのひとつでしたが、現在でも続いているものと思います。なぜ、朝起きるのにまで5分前の精神を発揮するのか、当事はなはだ疑問に感じたものでした。
ただし、それは停泊中の艦や航空部隊、学校などでは異様なのかもしれませんが、2直、3直の交代制で運航される航海中の護衛艦の上では、必要なことであるのかもしれません。

 ▽次号では・・・▽
 皆さん、いかがでしたか?楽しんで頂けましたか?
  次号は、~「7つの海に冠たる大英帝国」 ~ をお送りします。
 皆さん、是非お楽しみに・・・。

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