第14回:CONTROL BY NEGATIONとCOMMAND OVERRIDE « 個人を本気にさせる研修ならイコア

ホームサイトマップお問合わせ・資料請求
パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
サービス内容事例紹介講師紹介お客様の声コラム会社概要

第14回:CONTROL BY NEGATIONとCOMMAND OVERRIDE

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、退職後19年を経過した現在の私が当時を思い起こして感じていることを書かせていただきました。これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何となしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

このところ、本来の「マネジメント」から離れている内容が多かったかと思いますので、今回は少しでも「マネジメント」に関連すると思われる内容について書きたいと思います。当然のごとく、海上自衛隊、特に護衛艦において人材の育成は必須の事であり、さまざまな方法でなされています。一言で言うと、「自ら考えること」が重要視されているのだと思いますが、通常、指揮官である艦長が艦橋(ブリッジ)や戦闘指揮所において、その艦を動かす当直士官(哨戒長、航海指揮官など)に対して、どのような働きかけをしているのか、ということについて以下に記述します。

通常、特に緊急事態でもない場合は、ブリッジで艦を動かす当直士官(航海指揮官)に対して、艦長がブリッジにいる場合でも、艦長からの直接の指示ということはなされません。次のようなことが一般に行われています。(あくまで一例ではありますが)

航海指揮官:「左に舵を取って進路230度として、右30度距離7000(ヤード)のコンテナ船の前を横切ります。CPA(最近接距離)2000です」(これは報告であり、航海指揮官が自らの意思、意図を示すものです)
艦長:(‥‥‥‥)(無言で何も答えない)

艦長から何のアクションもなければ、航海指揮官は、了承されたものとして、自ら「取り舵」の号令をかけて、「230度ヨーソロ」と針路を指示して、艦は実際に進む方向を変えて当該コンテナ船を避けながら航行していきます。基本的には、航海指揮官が艦長の指示を仰ぐのではなく、全て自分で判断をして艦を動かしていくのです。ただし、報告はしっかりと行わなければなりません。

しかし、航海指揮官の判断に対して、艦長が異議を唱える際は、艦長は基本的に、「だめだ(NO)」というだけです。それ以上は何も言ってくれません。NOを突きつけられた航海指揮官は、速やかに次善の策を決めて自分の意図を艦長に報告します。

先の例であれば、

航海指揮官:「左に舵を取って進路230度として、右30度距離7000(ヤード)のコンテナ船の前を横切ります。CPA(最近接距離)2000です」
艦長:「だめだ」
航海指揮官:「速力を落として右に出て、コンテナ船の後方を通過します。2000ヤード後方を通過します」

すると、艦長からは、「なぜか‥‥?」という質問が飛んできます。質問には躊躇することなく素早く答えて艦長の了解を取らなければなりません。例えば「コンテナ船の針路から見て本艦とは横切りの関係になり、その場合、相手を右に見る本艦が避航船(避ける義務のある側と海上衝突予防規則に明記されている)となります」

少しでも躊躇したり、不適切な判断を示したりすれば、私たちの頃は鉄拳(?)が飛んでくるのが当たり前であったわけです。(現在はそんなことはないと思いますが、かなり厳しく叱られる、詰められる事は同じだと思います)その回答に対して艦長が了承すれば、それまでと同じように「無言」の状態が続くわけです。要するに、いつも自分で考え、自ら判断し、適切に報告をしつつ自分で進めていけということを日常の中で求め続けているのです。判断の誤りや不適切さというものも内容そのものを指摘されるのではなく、自分で考えて明確にしろということなのだと思います。これを、私たちは、“Control by negation”と呼んでいました。

ただし、事態が急を要するとき、緊急時においてはこのようなことはありません。緊急時には、もちろん航海指揮官等が自身で判断できればそれに越したことはありませんが、日頃無言を通している艦長自身が、自ら判断して、「艦長操艦」と宣言して、自ら「こうしろ‥‥」「ああしろ‥‥」と指示をすることとなります。これを、

“Command override”と言っています。要は、この両者の使い分けなのでしょうが、指揮官がいつも“Command override”のような指示をしていたのでは、その下につく者は自ら判断する余地もなく、考える幅も狭まってしまいます。

“Control by negation”では「考えさせる」ことはできますが、時間も手間もかかり、更には、危険を招くリスクも大きくなります。指揮官(管理者)が、自ら危険を招くリスクを避けたい、短時間で成果をあげようと思えば、短期的には“Command override”のほうが効率的かもしれませんが、一人ひとりの可能性を高める意味では、もっともっと「自ら考えること」「自分自身の頭で考えさせること」を求め続けることが重要かと思います。

艦長の「無言による返答」の中にこそ、組織を本当の意味で強くする鍵があるのだと私は日々感じています。

▽最後に・・・▽

皆さま、いかがでしたか?今月も楽しんで頂けましたか?

来年もまた、盛りだくさんの内容で皆さまにお届けしたいと思います。

是非お楽しみに・・・。

Copyright (c) 2024 e-Core Incubation Co.,Ltd. All Rights Reserved.  Web Produce by LAYER ZERO.