第21回:灯台 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第21回:灯台

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
退職後19年を経過した現在の私が当時を思い起こして感じていることを書かせて
いただきました。これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きした
ことを、特に明確な意図というものはなく、何となしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」
(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や
海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

みなさんは、「灯台」を知っていますか・・・?旅行などに出かけた際に海岸付近に
真っ白な灯台が見えるのは、海の風景として何とも味わいのあるものです。灯台は、
航海する者にとって欠かすことのできない道標(みちしるべ)であり、昼間でも大事
な目標となりますが、特に夜間の道標(みちしるべ)という意味では極めて重要な
ものと思われます。私も防大に入って初めて灯台について知り、実習や実際の勤務で
海の上から灯台を見る事が多くなりました。夜になると灯台はいろいろな光り方をし
ますが、同じ光り方をする灯台はないということ、また、灯台が見えただけで、自艦
からの距離が分かるなどということについてです。しかし、若い頃の私、すなわち
新米幹部の艦(船)乗りにとって、灯台は脅威となるもののひとつでもありました。
夜間に沿岸を航行していたり、陸岸に向かっている時に、突然灯台の光が見えてく
るのです。余裕のある時には、海図を見ながら、「次に見えてくるのは○○灯台」
だから、灯台表で確認して、「聞かれたすぐに~~と答えよう」などと考えているの
ですが、なにせ、部隊で行動する事の多い海上自衛隊の護衛艦ですから、ブリッジに
いる若い幹部はいつも死に物狂いで、そんな余裕などあるわけはありません。無線の
電話の呼び出しは鳴るは、上空から飛行機がソノブイを落としているは、更には、
艦内にその都度必要な号令を流さないといけないなど、様々なことが輻輳しております。

そんな中、艦長から「おい右30度に見える灯台はどこだ・・・」などと聞かれる訳です。
そんな時は「ちょっと待ってくださいよ・・・」などと言える訳もなく「はい、あれは・・・」
と口ごもってしまいます。更に艦長からは大きな声で「まだ分からんのか・・・」と怒鳴ら
れます。先輩の哨戒長からも、「早くしろ!」などと意味のないというか、艦長におもねった
ような怒声がとんできます。若い幹部としては「とほほほ・・・、海に灯台さえなければなぁ」
などという思いに駆られるのです。(灯台がなければ大変な事になるのですが・・・)
落ち着いて余裕のある時にも、こんな事が起こります。夕刻横須賀を出港して東京湾を
出ると、伊豆大島の東方、あるいは西方を通過します。その際、伊豆大島の北端にある
「風早崎」という岬にある灯台が目に入ってきます。艦長からは「あの光はどこの灯台か」
と聞かれます。慌てた若い幹部は、海図を見て「風早崎」とありますから「はい、あの灯台は
『風早崎灯台、灯質は~~、光達距離○○マイル、本艦との現在距離は△△マイルです』
と型どおりの報告をすると、後ろから先輩哨戒長の平手が飛んできます。「いて・・・!」と
思いますが、海図上で確認をしたので間違った事は言っていないという自信があるため、
口には出しませんが、やや反抗的な態度を示します。すると、艦長が穏やかな声で優しく
「おい、灯台表は見たのか」と言ってくれます。意味の分からない若手幹部は、指をなめな
がら慌てて灯台表をめくってみると、そこには「風早崎上にある『伊豆大島灯台』」と書い
てあるのです。観音崎、犬吠埼、石廊崎と、これまで知識として蓄えてきた主要な灯台は、
ほとんどが岬の名称と灯台の名が同じなのに、なぜかここだけ違うのです。経験を積む事に
より、他にも岬と灯台の名称の異なるものがあることが分かりますが「灯台の名称などどち
らでいいではないか」などとうそぶくのは、まだまだプロになれていない証拠ということです。
どんな基礎的なことであっても、状況対応することなく確実に一つひとつ自分の手で調べて
自分のものにする事の必要性を、その都度教えられるのでした。

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