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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第30回:カッター競技(その3 「私の原点」)

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
退職後19年を経過した現在の私が当時を思い起こして感じていることを書かせて
いただきました。これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きした
ことを、特に明確な意図というものはなく、何となしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」
(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や
海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

私が初めてカッターというものに触れたのは、海上自衛隊に入隊する前、すなわち
防衛大学校1学年の時でした。防衛大学校は横須賀の観音崎灯台の裏手にある小原台
という台地にあります。みなさまご存知のように、陸、海、空、各自衛隊の幹部と
なるべき学生を教育していますが、走水というところに海上訓練場を持ち、そこに
カッター、小型ヨット、クルーザー、機動艇などがあり、海上要員の訓練の用に
供しています。もちろん、海上要員の訓練というのが本来の目的ではあるのですが、
長い間の伝統として2学年に進級した際の5月の連休前に「カッター競技」というものが
あります。

1年間の最下級生の立場をようやく脱して後輩を持つ立場に立った2学年が、本当の
意味で上級生と認められるには、この「カッター競技」、そして、そのための準備で
ある「カッター訓練」を経なければなりません。2学年になると陸海空の要員が決まり
ますが、「カッター競技」は要員の別なく必須の競技なのです。新年度を迎えて喜び
勇んで新しい中隊(寮の一単位と思ってください)に異動すると、そこに4学年になっ
たばかりの先輩が待ち受けていて、その夜から魔の「カッター訓練」が始まります。
自習時間が終ると同時に「2学年集合」という重々しい声がかかり、2学年は全員毛布を
持って廊下に集合し、厳しい筋トレがスタートします。私が1学年で学生舎(寮)に
入った最初の夜、「1学年は廊下に出るな!」というお達しで自習室にいると、廊下から、
先輩である2学年の何とも言えないうめき声と上級生の持つ竹刀の音が響き渡り、
「とんでもないところに来たのでは‥‥」とおののいたものでした。朝は5時から走水の
海上訓練場まで丘を駆け下りて海上での櫂漕訓練が行われます。終ると、「7時からの
朝食に間に合わなくなるぞ!」と脅かされつつ丘を走って登って学生舎(寮)に戻り、
朝食を済ませるとそのまま課業整列で午前の授業が始まります。午後の授業が終ると
早速、筋トレ、ランニングに始まり、海上訓練場まで駆け降りてカッターを漕ぐことと
なり、今度は「風呂と夕食の時間がなくなるぞ‥‥!」と檄を飛ばされつつ、また山を
登って戻ります。これが平日毎日続きます。もちろん「カッター訓練」中は、2学年は
基本的にクラブ活動も停止となり、土日も訓練訓練で外出などできませんでした。

体の痛みや疲れは当然のこととして、何とも言い難いのは、尻の皮が向けて痛くて
仕方のないことでした。薬を塗っても、翌日また、カッターの台座に尻を当てて漕ぐので
良くなる術はありません。授業中は普通に座っても尻が痛くて痛くて、退屈で眠い授業
でも居眠りもできないという状況です。愚痴を言いたくても、新入学の1学年の面倒を
見る立場にある2学年は、弱音を吐くわけにはいきません。うまいシステムになっている
ものだ、と感心したものでした。防衛大学校では、すでに4学年は57期生、1学年は60期生
(私は20期生です)となっており、私の40年も後輩がいるのですが、現在も脈々とこの
「カッター競技」は続いているとの事です。

昔のことですが、一時期「カッター競技」廃止の議論が起こったことがあったそうですが、
これに断固反対して「継続すべし」と大きな声をあげたのは、本来カッターとは縁の薄い
陸上自衛官や航空自衛官である指導教官や先輩諸氏であり、カッターの本家本元である
海上自衛官よりもその声ははるかに大きかったと言われております。
伝統とは、しっかりと受け継がれていくものなのですね。

以上、3回にわたって長々と「カッター競技」について書かせていただきましたが、
ひとつの競技にも長い間に培われ、継承されている伝統がある反面、すでになくなって
しまったものなど、いろいろとあることをあらためて感じております。

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