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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第33回:逃げ場のない世界(艦(船)というフィールド)

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
退職後19年を経過した現在の私が当時を思い起こして感じていることを書かせて
いただきました。これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きした
ことを、特に明確な意図というものはなく、何となしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」
(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や
海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

私が護衛艦勤務で得た経験として最も大きなものは何か、と言われても、「いろいろ
ありますね」と言うしかないと思っていますが、何か印象に残ることと言えば、それは
艦(船)という世界は「逃げ場のないところ」だということかもしれません。一度港を
後にすると、たとえ1週間であろうと1ヶ月であろうと、はたまた数ヶ月に及ぼうと、
それは逃げる場所のない世界なのです。

一昨年9月、私は初めての本格的な山登りとして「剣岳」と立山三山の縦走をしました。
(昨年は4月末に穂高に登ってきました)その後10月と11月にフルマラソンに初挑戦した
のですが、どちらがきつかったかと言えば、もちろんフルマラソンはきつかったのですが、
登山の方が数倍きつかったという印象があります。

フルマラソンは途中棄権も可能であり、棄権したとしてもそれは自分だけのことです。
しかし、登山には途中棄権はあり得ず、登るにしろ断念するにしろ、自分の足でそれを
なさねばなりません。また、同行している仲間がいるため、一人で勝手に断念すること
もできないということです。

艦(船)はそれを更に極端にしたものということができます。海の上にいると、平穏な
毎日が続くものではありません。何日かおきかには低気圧や台風が通過します。荒天に
なると、誰がなんと言おうとその中に身を置くしかなく、天候の回復を神様に祈るしか
ありません。良寛和尚の言われたという「しかし災難に逢う時節には、災難に逢うがよく
候。死ぬ時節には死ぬがよく候。これはこれ災難をのがるる妙法にて候。かしこ」という
のが肌身でかんじるところでもあります。しかし、反対にどんな荒天の海も台風と行動を
ともにしない限りは3日以上にわたって続くことはあまりなく、2日ないし3日後にはまた
穏やかで優しい海が戻ってきます。

私の知り合いで、東京海洋大学の研究者の方がおられるのですが、次のようなことを言わ
れていたことが忘れられません。「東京海洋大学の学生は、実習や研究で長期の航海に
出ることがあるのですが、それはまさに逃げ場のない世界に身をおくことになり、正に
耐えるしかないということでした。そして、その航海を終えて戻ると、一人ひとりの学生
の意識は大きく変わるんです」ということでした。本当に人を育てたいと思うならば、
1、2ヶ月程度海の上の生活に放り込むのはひとつの方法ではないだろうかと思ったりもし
ています。

お客様の企業で、作業船を保有して海外での海洋土木工事を行っている会社があります。
毎年の研修にもその船に乗って作業の指揮・調整をしている担当エンジニアの方が来られ
るのですが、やはりどこか腹が据わっているという印象があるのは私だけではないと思っています。

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