第35回:次室士官心得 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第35回:次室士官心得

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で
載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、15年前に書いたものではなく、
退職後22年を経過してしまいましたが、現在の私が思い起こして感じていることを書かせ
ていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたこと
を、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤
務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と
読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や
海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

旧海軍において若手士官(将校)の教育に使われたと言われる「次室士官心得」なる
文書があります。旧海軍では大型の巡洋艦や戦艦などでは、士官(将校)の数が多い
ため、士官室(ワードルーム)のほかに、若手の中尉や少尉の集まる第2士官室とでも
言えるような「士官次室(ガンルーム)」というものがあり、そこに集まる若手士官を次室
士官(ガンルーム士官)と呼んでいたと言われています。このガンルーム士官、すなわち
若手士官(将校)に対する教えが、この「次室士官心得」なのです。海上自衛隊の幹部
候補生たちも、幹部候補生学校で古いコピーを手渡され、特に「読め」と強制されるわけ
でもなく、「覚えろ」などと言われたこともありませんでしたが、なぜか、その後任官しても、
艦隊勤務になっても座右にあってその都度読み返しているようなものなのです。私は今
でも座右に置いております。
この中に書かれていることは、異動の際の手続き的なこと、礼儀から始まり部下指導
など多岐にわたっていますが、その内容が極めて具体的なものとして書かれています。
旧陸海軍の指導書などといったら精神論的なものではないか、と決め付けておられる向
きも多いかと思いますが、この内容を見ると実に事細かに書かれています。一時期書店
で多く売られていた「リーダーシップ」という本があるのをご存知の方も多いことと思いま
すが、これは米国のアナポリスにある海軍兵学校(Naval Academy)のリーダーシップ
教科書であり、それこそ、「部下は名前で呼べ」などと極めて具体的に表現されている
ものが多くあります。
この「次室士官心得」の内容にも極めて具体的なものが多く、今回はその一端では
ありますが、「部下指導」の内容についてみなさまに紹介させていただきたいと思います。
昔の文章なので少し読みづらいところもあると思いつつ、まずはご参考までに。

第六 部下指導について
1  常に至誠を基礎とし、熱と意気を以って国家保護の大任を担当する干城の築造者
たることを心懸けよ。「功は部下に譲り部下の過は自ら負う」は西郷南洲翁の教えし処
なり。「先憂後楽」とは味わうべき言葉であって、部下統御の機微なる心理もかかる所に
ある。統御者たる我々士官は、常にこの心懸けが必要である。石炭積み等苦しい作業
の時には士官は最後に帰るよう努め、寒い時に海水を浴びながら作業した者には風呂
や衛生酒の世話までしてやれ。部下に努めて接近して下情に通ぜよ。ただし、部下に
馴れしたしむるは最も不可、注意すべきである。
2  何事も「ショートサーキット」は慎め。一時は便利のようだが、非常なる悪結果をもた
らす。例えば、分隊士を抜きにして分隊長が直接先任下士官に命じたとしたら、分隊士
たる者如何なる感を生ずるか是れは一例だが、必ず順序を経て命を受け、または、下す
という事が必要なり。
3  「率先躬行」部下を率い次室士官は部下の模範たることが必要だ。物事をなすにも
常に衆に先んじ、難事と見れば、真っ先に之にあたり、決して人後におくれざる覚悟ある
べし。また、自分が出来ないからといって、部下に強制しないのは良くない。部下の機嫌
をとるが如き絶対禁物である。
4  兵員の悪しき所あらばその場で遠慮なく叱正せよ。温情主義は絶対禁物。しかし、
叱責する時は場所と相手とを見てなせ。正直小心の若い兵員を厳酷な言葉で叱りつけ
るとか、また、下士官を兵員の前で叱責する等は百害あって一利なしと知れ。
5  世の中は、何でも「ワングランス」で評価してはならぬ。誰にも長所あり、短所あり。
長所さえ見ていれば、どんな人でも悪く見えない。また、これだけの推量が必要である。
6  部下を持ってもそうである。まずその短所を探すに先だち、長所を見出すに努める
ことが肝要。賞を先にし、罰を後にするは、古来の名訓なり。分隊事務は部下統御の
根底である。叙勲、善行章等は特に慎重にやれ。また一身上のことまで立ち入って面
倒を見てやるように心懸けよ。分隊員の入院患者は、時々見舞ってやると言う親切が
必要だ。

いかがでしょうか。「ショートサーキット」や「ワングランス」などという言葉が当たり前の
ように出てくるところが海軍の海軍たるところかな、などとも思いますが、内容としては
現代の企業で働くわれわれにも十分に参考となるものではないでしょうか。

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