第36回:保護色 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第36回:保護色

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で
載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、15年前に書いたものではなく、
退職後22年を経過してしまいましたが、現在の私が思い起こして感じていることを書かせ
ていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたこと
を、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤
務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と
読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や
海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

前回は、「次室士官心得」ということで若手士官の教育のあり方についてお伝えしまし
たが、今回はやや趣向を変えて軍艦という乗り物そのものについて考えてみたいと思
います。軍艦というものを洋上において見分けるのにはかなりの経験に基づく識別能力
が必要です。みなさんは、どこかで船に乗ったり、浜辺に佇んだりして海を見ているとき
に、海に浮かぶ船を見て、それがどんな船だかわかるということはなかなか難しいこと
だと思います。ましてや夕暮れの薄暮、朝方の薄明時などには、船(艦)はシルエット
としてしか認識できずに、ただ、黒い影のような存在でしかありません。私が若いころ
には、護衛艦隊の中で「術科競技」と称してさまざまなカテゴリーの競技が行われてい
ましたが、そのひとつに、「艦型識別」というものもありました。同盟国や対象国の艦船
のシルエットや写真を見て、それがどの国の何という艦で、どのような艦種であるかを
短時間に識別する能力を競うものでした。現代の洋上の戦いにおいては、レーダーの
性能も向上しているため電波で相手を探知すること自体は技術的に容易となっていま
すが、反対に、電波を照射することは自らの位置を暴露することともなるため、戦術的
には不用意にレーダーを用いることはできないことは、以前、「第13回 近代戦(洋上
での戦い)」においてご説明したとおりです。現代の戦いにおいては洋上においてまった
く予期しない中で敵味方が遭遇するなどというのは、相手が潜水艦であれば別ですが、
海面に浮かぶ水上艦同士では起りそうもありません。しかし、軍艦の基本原則というの
は、どのような状況であれ、敵に見つけられない、敵から見て見つけにくくなっていると
いうことは今も昔も変わっていないと思います。良く耳にする「ステルス」という言葉は
その代表的なものであり、航空機であれば微妙に変化するその形状によって、レーダー
に捕捉されにくくしているものを言います。原理的な説明をすれば、レーダーの電波が
当該航空機に当たった時に、一定方向に反射しないような形状にするなどして、反射
波が電波の発射母体方向に返っていくのを防止することです。軍艦であれば、上部の
構造物をできるだけ小さくすること、また、上部構造物そのものに傾斜を持たせたり、
角度を一定にしないようにしたりして、これも航空機同様にレーダーの電波が当該艦艇
に当たった時に、反射波が電波発射母体方向に返っていくのを防止することなのです。
しかし、もっと原始的なことで言うと、同じ軍艦でも「色」が異なるということをみなさんは
ご存知でしょうか。海上自衛隊の護衛艦と米海軍の軍艦はともに灰色(グレイ)ですが、
その色合いは微妙に違っています。昔々日本に来航したオーストラリアの軍艦を私が
見学した際に、その色が米海軍や海上自衛隊の艦とは異なり、何となく緑色がかって
いることを疑問に思ったことがあります。
なぜ色が違うのかとその艦の乗組員に聞いたのですが、その時には明確な返答が得ら
れなかったのでした。(それは、高校生であった私の英語力の問題であったかもしれま
せんが‥‥)
しかし、幹部候補生学校を卒業して遠洋航海に出たときに、その疑問に対して明確な
答えが得られたのです。ハワイからタヒチを経由してニュージーランドに向かう洋上での
こと、南に行けば行くほど海の色が日本近海の青(群青)ではなく、緑色になっていく
のです。ニュージーランドにおける最初の寄港地オークランドの港に浮かぶニュージー
ランド海軍の軍艦は、まさにこの海に適合した保護色のように緑色がかった灰色をして
いるのでした。保護色というものがどの程度現代の海戦に有効なものかどうかには一考
の余地があると思われますが、それが海軍の歴史の中で、「敵に見つけられない、敵か
ら見て見つけにくくなっている」ということの重要性を表していることであることは間違い
のないところだと思います。

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