第42回:ナッツリターン騒動に思う « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第42回:ナッツリターン騒動に思う

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、以前に書いたもの
ではなく、海上自衛隊退官後22年を経過してしまいましたが、現在の私が思い
起こし感じていることを書かせていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、
などという企みをしました。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題
も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間
生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」が
ごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話
を進めたいと思っております。

今回、海軍や海上自衛隊のことから離れ、最近話題になった飛行機の話、
とはいっても遭難事故ではありません。機内サービスに対する不満から、自社の
飛行機を搭乗ゲートに引き返させた例のお話しについて、私の感じていることを
書かせていただきます。この事件はまだ騒ぎの渦中にあり、私の情報不足による
認識の誤りなどがあるかもしれませんが、それを恐れず現在までに考えたことを
お伝えしたいと思っております。

ナッツリターン騒動とは、昨年12月5日、午前0時50分(現地時間)、米国
ジョン・F・ケネディ国際空港から韓国仁川国際空港に向かうため滑走路に向かい
始めた大韓航空86便(エアバスA380型機)を、乗客として乗っていた同社の
趙顕娥(チョ・ヒョナ)副社長が乗務員に対してクレームをつけ、機を搭乗ゲートに
引き返させ、機内サービスの責任者を機から降ろして運行を遅延させた出来事で
あり、みなさまもよくご存じのことと思います。当事者であったこの副社長はもとより、
彼女の父親であり韓進グループの代表取締役会長を務める趙亮鎬(チョ・ヤンホ)氏
も「顧客に不便をおかけしたことを深く謝罪する」とコメントを発表することとなりました。
これらの報道に接していて私が不思議に思ったことがあります。もちろん、当事者の
趙顕娥副社長の行為は大いに問題があり、それを許している会社やその総帥である
趙亮鎬会長も大変に大きな責任があると思います。しかし、飛行機と艦は違うとはいえ、
同じ乗り物に乗っていた者としてどうしても納得できないのが、86便の機長の対応です。
韓国国内でも航空法50条1項には、航空機の乗務員に対する指揮・監督は「機長」
が行うという条文があるそうです。(もちろん、わが国の航空法にも、第73条1項に
「機長の権限」が明記されています。)
相手が自社の副社長であり、副社長から指摘された何らかの不備に対して機長が
責任を持って対処するのは当たり前ですが、ナッツの出し方云々で出発した機体を
再度搭乗ゲートまで戻すということをするのでしょうか。「機長といえどもサラリーマン
なんだから仕方がない」という言い訳もあるかもしれませんが、日本の航空会社の
機長だったらどのように行動するのでしょうか。もちろん、日本にはそんな社長、副社長
はいない、ということもあるでしょうが、私が問いたいのは、「みなさんが機長であったら
どのような対応をとるのでしょうか」ということです。実際の機長がどのような行動をした
かはわかりませんが、仮に機長が唯々諾々と副社長の指示のとおりに機体を搭乗ゲート
に戻し、自分の指揮下にあるチーフパーサーを降ろした結果、自社の副社長があれだけ
マスコミや国民からの非難の的となり、全ての経営から退くことになったのです。
そして、韓進グループの会長までが謝罪するような事態となったことについて、この
機長はどのように感じているのでしょうか。もしかしたら、大韓航空の社員の多くが、
何かこのような機会があれば、会社の経営陣をおとしめてやろうという意図を日頃から
持っていたというのであれば話は別ですが。
このことは、企業で働く多くの管理職のみなさんにとっては、他人事ではないひとつ
の大きな課題であろうかと思っています。話を置き替えてみるならば、新田次郎の
小説「八甲田山死の彷徨」の主人公神田大尉に対する、同行した大隊長山田少佐の
ごとき観があります(山田少佐のモデルとなった実際の山口鋠少佐は、そんなひどい
ことはなかったということですが)。神田大尉は大隊長の指揮権のない思いつきの
ような指示に翻弄されて多くの人命を失うこととなったのですが、本質的にはその
ことと同じものを感じてしまいます。
こんな話をしていたら、ある人から、「現在の韓国における社会的な問題がそこに
あるのではないか」というご指摘をいただき、私もその言葉で初めて、昨年4月に
起きた大型旅客船「セウォル(世越)」号が、全羅南道珍島郡の観梅島(クヮンメド)
沖海上で転覆・沈没した事故と結び付けて考えることができました。多くの心ある
韓国の方々が聞くと怒るかもしれませんが、そうです、あの時も、船長や乗組員が
職務を放棄して乗客を見捨てて自分たちだけが沈む船から逃げ出した、と報道され
ていたのでした。今回の機長の行動がもしこのようことであったとしたら、本来の
キャプテンとしての職務が全うされていないことであり、私には明らかな職務放棄
と映ってしまうのですが、みなさんはいかがお考えになるでしょうか。
後日談ですが、年明けに高校のハンドボール部同期の新年会でこの話をしたところ、
M物産で化学品(食品関連)を長年担当していた者が、「そうか、紺野はあの話で
機長のところに考えが及ぶのか、俺は、長年人の口に入るものを扱っていたので、
すぐにナッツのようなものは、人の手を介さずに袋のまま提供するのが本来のサービス
ではないか、などと考えていたよ」と語った言葉が印象的でした。同じものを見ても
聞いても、それぞれの経験を通して見たり、聞いたりするものなのですね。
さて、みなさんは、どんな切り口でナッツリターンのお話を受け止められたのでしょうか。

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