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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第6回:階級制度

※このコラムは、弊社代表紺野が海上自衛隊時代、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた経験の中で見聞きしたことを書いたものです。10年以上前に、ある団体の機関紙に数回に分けて掲載されたものを、今回いくつかの追加、修正を加えて載せているものなので、記載の時代背景等、現在のものではないことをお断りしておきます。

階級制度

私は、海軍であろうと陸軍であろうと組織である以上基本的には一般の企業と変わらないと思っております。しかし、一般には軍隊というものに対して特殊な世界、異質な社会、果ては異質な人間の集団、といった見方をされることが多いと思います。軍人という者が一般の人々にとって異質に見えるのは、やはり、制服を着用していることとその象徴のような階級章にあると思います。軍隊には階級がつきものです。この階級制度とういうものについて考えてみたいと思います。

階級とは、企業で言えば、職能資格制度の等級基準のようなものと思ってよいでしょう。すなわち、部長、課長などの役職とある程度はリンクしつつもそれとは別に、一定の職務に就くことができるか否かという組織の中におけるその人の位置づけを規定したもの、ということができると思います。

それでは、階級とは軍隊の中で、また、現在の自衛隊という組織の中ではどのような意味をもつのでしょうか。そのことが、同じ組織といえども軍隊と企業とを分ける最大の違いであると思います。階級制度の最も大きな特徴としては、個々の人間に階級という位を与え、階級章をもって外見的にもそれを明示して、誰もが識別できるようにしているということでしょう。

なぜ外見で判断できるようにしているかというと、戦闘という過酷な状況を想定した上で指揮、命令関係を明確にする、というのがそもそものねらいだと思われます。編成上の部隊行動ではなくとも、敵味方入り乱れての戦闘状況の中では、味方の部隊の多くも倒れ、離合集散を繰り返したあげく、それぞれの部隊から生き残りが集まることもあります。このようなときでも、烏合の衆とならず、常に組織だった行動のできること、すなわち、指揮、命令関係が明確になっていること、これが軍隊の基本なのだと思います。

しかし、装備、技術の発達した現代の軍隊に本当に階級が必要なのかどうか、私は、若い頃にもふと考えたことがあります。職務上の役職、配置が明確になっているだけで良いのではないか、などとも思いましたが、軍隊というものは発想自体がすべて有事を基準にしていることから、これを不要と言うことはできないのだと思います。

海軍においては、また別の意味で同様の発想がなされます。海軍の艦艇というものは、すべて有事を想定して設計されています。有事ということは、単に戦闘の遂行ということにとどまらず、戦闘において被害を受けた際のことなのです。このため高価な電子機器を除いた船体だけでも、商船などにくらべるとはるかに高価なものとなっています。一例をあげると、船体は商船に比べ多くの区画に区分されており、ひとつの区画への浸水では沈まないようになっています。艦内の通信連絡には電話を使っていますが、戦闘時に使用する電話は、基本的にはすべて「無電地電話」という電源を必要としないものです。また、消火用の海水管は艦内のいたるところを走っており、電源も複数の発電機から複数のルートで確保できるようになっています。もちろん、舵も最終的には人力で動かすことができるのです。ただし、海上自衛隊においては先に述べた「指揮、命令関係の明確化」と同義ではありますが、「指揮継承順位」という概念と用語が使われています。それは、陸上にある基地を離れ、遠く部隊だけで行動する艦を主役とするためのものであると思います。

このように考えてくると、階級や階級章という存在があるのは、やはり軍隊というものの発想の基準が有事にあることに、他の組織とは区別される最も大き理由だと思います。

以下はまったくの私見ですが、今日の自衛隊といえども、その幹部(将校)といわれる人、あるいは、ベテランの曹(下士官クラス)といわれる隊員には、そこに個人による程度の差はあれ、必ず、有事ということを意識しているのだと思います。言葉を変えて言うと、自らの「死」と部下の「死」というものと向き合っている、ということが根底にあるのだと思っています。

私自身が一線の護衛艦で勤務している際は、いつもそんなことを意識していました。今この場が火に包まれたら自分はどうするのだろうか。目の前で部下の何人もが倒れる状況で何ができるのだろうか、自分の区画に浸水して艦が沈むとなったら、どんな対応ができるのだろうか、などといつも考えていました。その際の恐怖感というものは、シミュレーションとはいえ、非常に大きなものがあり、いつも自分自身の弱さ、情けなさを感じながらのものだったと思います。私のアシスタントとして就いている学校を出たての若い幹部によく言っていたことがあります。当時の私の配置は艦の底にある「対潜指揮室」と「ソーナー室」という区画であり、そこに20数名の部下でもある曹士(下士官兵)が一緒におります。もし艦が沈むときには、その区画の外の通路にある小さなハッチから、私の部下20数名と隣のCIC(戦闘情報中枢)区画で配置についている20数名など50名近くの者が一度に脱出することとなります。

「この艦が沈むとき、このハッチからが脱出するのは俺が最後になるが、君は俺のひとつ前だからな。みなが脱出し終えるまでの間、二人でゆっくりと煙草でも吸って待っていようや!」

そう言いながら、部下をさしおいて先頭を切って逃げ出そうとするのではないかという自分の弱さを強く感じつつ、彼にではなく、自分自身に言い聞かせていたようにも思っています。

▽次号では・・・▽

皆さん、いかがでしたか?

働く世界は違っても、組織である以上は階級(職位)があり、階級が上がるにつれ与えられる任務の大きさは変わってきます。階級があるからこそ、指揮命令者が部下を正しい方向へと導き、烏合の衆にならず、常に組織だった行動ができるようになるのですね。部下を正しい方向へと導くことの重要さ、難しさを痛感しているのは、どの世界にも共通する永遠のテーマなのかもしれません。

次号は「上陸」をお送りします。皆さん、是非お楽しみに・・・!

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